オーギカナエ
アーティストステートメント
30年ほど前になるのだが、とあるアジアの街で見た光景は忘れない。
現地で大きな壁画を制作していた私はその時、最寄りの大きな駅へ向かって目的の列車に乗ろうと人ごみの街を急ぎ足で歩いていた。
会社に出勤しなければならない人の群れはどこも同じで行き交う人々は急ぎ、ざわめいていた。その端っこにその家はあった。
せいぜい6歳くらいの女の子と兄弟達。彼らは屋根も柱も壁もない、つまりは何もない空間に住んでいた。家長であるらしき彼女は保護者の眼差しで朝食の準備中であり、か細い指で小さな食パンにバターを塗り付け兄弟達に朝ご飯をつくってあげていた。兄弟達も神妙な面持ちでじっと朝食が支度されるのを待っている。その様子はこども達だけで道端に住まわなければならない寂しさや不安を感じさせるというよりも、何故だか堂々たる「家」とか「家庭」という言葉がぴったりだった。
ざわめく街、その端にある彼女達の家。
私たちは土地を買ったり、建物を建てたりという方法で家という確固たる空間を所有するのだが、それも錯覚なのかもしれないとふとおもった。
何よりも、思いと時間が充満してゆき空間をつくるのだ。
そしてそれはいつでも移動可能なのである。
時間に身を委ね、ゆったりと場所を選びその土地を感じる、微笑みながら出会った人とお茶を飲みお菓子を食べておしゃべりする。
まだ見ぬ誰かと私の思いが、また新しい家をつくるために。
オーギカナエ
1963年佐賀県唐津市生まれ、福岡県久留米市在住。1984年武蔵野美術短期大学美術科油絵専攻卒業後、東京を中心に大型インスタレーションを制作発表する。インド、シンガポール等で既存の建物の壁を使ったサイトスペシフィックな作品を制作。拠点を東京から福岡に移し、建築の内外につくるパブリックアートや食を使ったワークショップを多く行う。出自に関わる明治から昭和初期にかけて活躍した茶人で数寄屋建築家の仰木魯堂、茶人で木工芸家の仰木政斎にちなみ、思わず心を緩めたくなる巨大なイエロースマイルの茶室をOpenART Biennale 2017(オレブロ)に出品し、市民を巻き込んでの茶会も行う。
こどもの美術活動“手で考える”や彫刻家牛嶋均とのユニット“YAPPOTUKA”(ヤポッカ)なども展開している。