アンド21(芸術交流共催事業)

Telexplosion テレビ王国の憂愁1980s─MTV、ジャンボトロン、INFERMENTAL

2020年2月8日(土)、9日(日)、11日(火・祝)

インフォメーション

期間:

2020年2月8日(土)、9日(日)、11日(火・祝)

会場:

金沢21世紀美術館 シアター21

料金:

●1プログラム券
大人:1500円(当日1800円)
中・高校生:600円(当日1000円)
小学生以下:無料
●2プログラム券
大人:2800円
中・高校生:1000円
●フリーパス
大人:5500円
中・高校生:2500円

概要

テレビのために制作された実験的でエンターテイニングな映像作品。
1980年代、VHSの普及や「MTV」の開局で家庭のテレビに実験的でエンターテイニングな映像があふれました。つくば科学万博(1985年)では、巨大なテレビ「SONYジャンボトロン」が出現。そんな時代を映しだす映像プログラムの上映と関係者によるポストトークやQ&Aを行ないます。

1980年代におけるビデオアートとテレビ

  •  1980年代は、サイバーパンクと近未来のシンボルとして「トウキョー」が世界から注目され、華やかなバブル経済と通信技術が急進的に発展していく幕開けの時代。それに呼応するかのように、人々はテレビメディアへ期待を寄せ、アーティストはその可能性を追求した。さらに、VHSテープの普及やMTVの開局によって、家庭のテレビ画面に実験的でエンターテイニングな映像があふれた時代でもあった。
     1981年に開局したミュージックビデオ専門チャンネルMTVは、ミュージシャンとアーティストや映画監督とのコラボレーションを促した。1985年のつくば科学万博の会場に出現した約2000インチのソニー製「ジャンボトロン」と、そこで行われたパフォーマンスは多くの人々の記憶に残った。翌年、ナム・ジュン・パイクが衛星中継を使ったテレビパフォーマンス《バイ・バイ・キップリング》を実施。そして、国際ビデオカセットマガジン「INFERMENTAL」は、雑誌の形態を借りた映像作品を発表する場で、1988年には「テレビ王国の憂愁」と題して東京エディションが発行された。
     これらの活動は、ビデオのメディウム的特性が発揮されているにもかかわらず、その革新性や文化的価値を再評価する機会は限られている。そもそもマスメディア批判から始まったビデオアートだが、1980年代はビデオアートとテレビが近づき、新たな共存関係を築こうとしていたかのようでもある。しかし、その後、インターネットの台頭により、テレビモニターからは実験的で過激な映像は消え去って行く。テレビが映像の実験的舞台となった時代に「テレビ」で見ることを想定して制作された映像作品を振り返り、ポスト・インターネット時代の映像文化への接続について考えてみたい。

プログラム1:テレビ・ハッキング

  • ハッカーがコンピューターへ不正侵入した際に使われるハッキング、という言葉には叩き切るという意味もある。ビデオはそもそもテレビ放送のために開発された規格だが、ビデオアートはテレビとの愛憎関係の歴史ともいえる。60年代のビデオアート黎明期はテレビを「叩き切ろう」としたことに対して、80年代はより熟知した上でテレビの電波とモニター画面をしなやかに「ハッキング」しようとした。

  • Courtesy Electronic Arts Intermix (EAI), New York.

    ●ナムジュン・パイク《バイ・バイ・キップリング》1986 30‘00“ color

    ポストトーク:島敦彦(金沢21世紀美術館館長)
    英国の作家キップリングは自身の詩「東と西のバラード」で、両者の隔たりを西欧優位の観点から表現した。それに対して、パイクはそんな時代は終わったと言わんばかりに、韓国、日本、米国を結んだ衛星中継放送を使ったパフォーマンス作品。前身に米、仏、独を中継した作品《グッド・モーニング、ミスター・オーウェル》(1984)がある。

  • ●国際ビデオカセットマガジン「INFERMENTAL」東京エディション 《INFERMENTAL 8──テレビ王国の憂愁》(抜粋版)1988 60’00” color

    編集:清恵子/アルフレッド・バーンバウム
    ポストトーク:清恵子

    「INFERMENTAL(インフェルメンタル)」は、ケーブルテレビや衛星放送など情報インフラへ立ち向かうための手段ではなかった。あくまでもビデオメディアの発展的な拡張を目論んだアート・マガジンで、さまざまなジャンルの映像をテープ空間に併置することによってその時代を映しだそうと試みた。各国で1982年から1991年にかけて全11エディション発表した。

プログラム.2 急進的なテレビ

  • つくば科学万博は映像博と呼ばれるほど、映像があふれた博覧会だった。ソニーが出品したのは世界最大のデジタルテレビ「ジャンボトロン」。映画スクリーンの進化は止まったけれど、テレビ画面はその後、画面が薄くなり、リアルタイムに双方向通信を可能にするネットワークが背後につながり、急進的に発展していく。このプログラムでは、つくば博を締めくくった坂本龍一とビデオアーティストらによる、テレビの進化を予見したジャンボトロンのための作品を紹介する。

  • ●浅田彰/RADICAL TV/坂本龍一《TV EV Live: TV War》1985 40‘00“ color

    ポストトーク:堂井裕之/沖野雄一

    「TV EV」とはTV Evolution(TV進化)の略で、浅田彰によれば、「《TV War》は、このTVエヴォリューション・プロジェクトのファースト・ステージとして遂行される。」とある。それはメディア革命と同列で、そこに映し出される映像は映画やビデオアートではない何かであり、ハードとソフトの関係を無効にするような新しい何かを展望したパフォーマンス作品の記録。

  • Courtesy Electronic Arts Intermix (EAI), New York.

    ●キット・フィッツジェラルド/ポール・ギャリン《アデリー・ペンギン》1986 33‘00“ color

    ギャリンはパイクのアシスタントで、当時、自身の作品制作の傍で商業的なビデオを手がけていた。パイクがビデオテープやテレビ電波に自由を求めたように、ギャリンは後に新たな公共圏を求めてオンライン上に活動領域を広げていく。彼の映像表現であるスタッカートが効いた断片的な映像は、サイバネティックス的な情報空間を想起させる。

プログラム.3 ドイツからの新しい波

  • 米国でMTVが開局した1981年に、西ベルリンではディー・テートリッヒェ・ドーリスのメンバーであるヴォルフガング・ミュラーが企画した「天才的ディレッタント祭(Festival Genialer Dilletanten)」が開催された。ドイツのポスト・パンクやノイエ・ドイチェ・ヴェレが注目された時代、オルタナティブを志向した彼らもまたビデオメディアとは無関係ではなかった。1980年代にドイツから来日公演し、ミュージック・ビデオというジャンルに収まりきらないサイバーパンク的な映像を制作した3つのバンドを紹介する。

  • ●デア・プラン《JaPlan: ライブ・イン・ジャパン 進化ストリップショー》1984 40‘00“ color  監督:ゲールト・シュタイン/モーリッツ・ライヒェルト/ヴォルフガング・ビュールト

    ポストトーク:明石政紀(ドイツ音楽評論家、当時Waveレーベル担当)

    1970年代にヨーゼフ・ボイスに学んだフェンスターマッハーとライヒェルトは音楽に視覚芸術を持ち込んだアーティストでもある。1984年の来日公演の際に撮影されたパフォーマンス映像が含まれる本作品は、石>植物>虫>突然変異体>ロボット>ヒトへ変化する独自の進化論をコミカルに表現した作品。

  • ●アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン《1/2 Mensch(半分人間)》1986 60’00” color (*通常より大きな音響で上映)

    監督:石井岳龍 
    ポストトーク:石井岳龍

    人造人間やサイボーグを連想させるタイトル《半分人間》は、音楽に映像を付けたミュージックビデオではなく、音楽毎のチャプターから構成される一つの芸術的映像作品のようである。廃墟から突然、高層ビルが立ち上がるように、破壊と創成を繰り返すことで生まれる新たな価値感を人間の存在意義にまで踏み込んだ、音響的にも映像的にも詩的な作品。

  • ●ディー・テートリッヒェ・ドーリス《これがディー・テートリッヒェ・ドーリスだった(1980-1987)》1988 100’00” Color

    ポストトーク:明石政紀(ドイツ音楽評論家、当時Waveレーベル担当)

    彼らが来日した1988年にはすでに解散していた。そのため、公演はコンサートではなく「白ワインに成り変わっていたドーリス自身が、過去の自分を演じるシアター」というコンセプトであった。シアターの進行は、明石政紀がつとめた。ミュラーが牽引したダダイスト集団「天才的ディレッタント」の実験性が凝縮されたドキュメンタリー映像。

ポストトーク・ゲスト

  • 清恵子 Sei, Keiko

    キュレーター、メディア・アクティビスト、著述家。1980 年代前半に日本のビデオアートを支えたビデオギャラリーSCANのディレクターを務めた後、フリーのビデオキュレーターとして活躍。その後共産主義国家のメディア状況を研究するために 1988 年に東欧に移住。東欧各地のメディア・アクティビストやアーティストたちとメディアやアートを使った民主活動を開始する。東欧の民主化後も、ユーゴスラビア市民戦争におけるメディア研究を続けながら政治とアートとメディアの要素を組み合わせたプロジェクトのキュレーションを各地で次々と打ち出した。2002 年に活動を東南アジアに移し、ミャンマーとタイを中心に研究と活動を続けている。ミャンマーでは映画の教育を始め、ワッタン映画祭の創設やミャンマー映画の新しい波の台頭に貢献する。

  • 堂井裕之 Doi, Hiroyuki (everyday records)

    1998年にオールジャンルのレコード/CDショップ、 エブリデイ・レコード開店。以降、金沢市笠市町〜尾張町〜彦三町を経て現在は有松にて営業中。イベントやラジオでの選曲&時々おしゃべりも。

  • 沖野雄一 Okino, Yuuichi

    多感な思春期からサブカルチャーにどっぷり浸かった、 流行りモノ好きなサブカルヲタク。 趣味でDJ U-1として地元のクラブなどで30年ほどDJもやっています。本業は広告のグラフィックデザイナー。

  • 明石政紀 Akashi, Masanori

    著述家。1981-83年ドイツのロック/ポスト・パンクの音楽批評、1985-93年六本木ウェイヴのレコード/CDレーベル「WAVE/eva records」の制作者。以降は著作、翻訳に従事。著書に『ベルリン音楽異聞』(2010)、『キューブリック映画の音楽的世界』(2008)、『ポップ・ミュージックとしてのベートーヴェン』(2002)、『フリッツ・ラング』(2002)、『ドイツのロック音楽』(1997/2003)、『第三帝国と音楽』(1995)、訳書にR.W.ファスビンダー『ファスビンダー、ファスビンダーを語る』全三巻(2013-15)および『映画は頭を解放する』(1998)、Ch.ボーングレーバー編『ベルリン・デザインブックはデザインの本ではない』(2013)、E.ヴァイスヴァイラー『オットー・クレンペラー』(2011)、M.H.ケイター『第三帝国と音楽家たち』(2003)ほか。

  • 石井岳龍 Ishii, Gakuryu

    映画監督 1957年生 2010年石井聰亙より改名
    主監督作品「狂い咲きサンダーロード 1980」「SHUFFLE 1981」「爆裂都市 1982」「アジアの逆襲 1983」「逆噴射家族 1984」「指圧王者 1989」「エンジェルダスト 1994」「水の中の八月 1995」「ユメノ銀河 1996」「五条霊戦記 2000」「ELECTRIC DRAGON 80000V / 2001」「鏡心 2005」
    「生きてるものはいないのか 2012」「シャニダールの花 2013」「ソレダケ/ that’s it 2015」「蜜のあわれ 2016」「パンク侍、斬られて候 2018」など。2006年より神戸芸術工科大学 映像表現学科 教授。新作映画準備中。

  • 映像ワークショップ

    木村悟之(映像作家/映像プロダクション)と明貫紘子(キュレーター/メディアアート・アーカイブ研究)によって2018年加賀市を拠点に設立。上映プログラム企画、ワークショップ、映像制作、コミュニティ・アーカイブ、リサーチなどを展開中。アナログ/デジタル、大きいスクリーン/小さいディスプレイ、24時間を超えるテレビ番組/数秒で終わる広告、一人で鑑賞/多人数でパブリックビューイング、映画上映/映像展示、マスメディア/セルフメディアなど、現代の映像メディアの形態とそれを通した映像経験は多様です。そこで、私たちは「市民と公共空間における映像との関わり方を考える」というテーマを設定し、映像を囲んで人々が集い、語り合う場を創出していきたいと考えています。www.eizo.ws

関連プログラム

  • ピーター・バラカン presents 80年代の洋楽シーン~ミュージック・ヴィデオの先駆的な監督たち

    DJ・案内役:ピーター・バラカン
    ゲスト:映像ワークショップ 明貫紘子、木村悟之
    料金:前売 3,000円(当日500円増) 発売日9月13日(金)
    取扱:オレンジヴォイスWEB、チケットぴあ、イープラス、金沢21世紀美術館ミュージアムショップ(窓口販売のみ)
    主催・お問合せ:株式会社オレンジ・ヴォイス・ファクトリー、映像ワークショップ:076-411-612(オレンジヴォイス)

    詳細はこちら

アンド21

  • 「アンド21」は、地域文化の活性化を支援すべく、金沢21世紀美術館が芸術性と創造性に富み地域交流と次世代育成につながる事業を公募・採択し、共催事業として広報・制作面で主催者をサポートする事業です。2019年度は4つの事業、チーム最後のオーケー『最後のオーケー』、鈴木ユキオプロジェクト『春の祭典』、映像ワークショップ『テレビ王国の憂愁ー1980sMTV、ジャンボトロン、INFERMENTAL』、らまのだ『優しい顔ぶれ』が選ばれました。

Movies

クレジット

主催:

映像ワークショップ

キュレーション:
明貫紘子+木村悟之(映像ワークショップ)

共催:

金沢21世紀美術館[公益財団法人金沢芸術創造財団]

協賛:

SUEZAN STUDIO

協力:

ゲーテ・インスティトゥート東京、カールスルーエ・アート・アンド・メディア・センター(ZKM)