期間:
2024年6月22日(土)〜9月29日(日)
10:00〜18:00(金・土曜日は20:00まで)
2024年6月22日(土)〜9月29日(日)
10:00〜18:00(金・土曜日は20:00まで)
金沢21世紀美術館
展示室1~6、13、長期インスタレーションルーム、プロジェクト工房、デザインギャラリー
※プロジェクト工房は9月8日(日)まで
一般 450円(360円)
大学生 310円(240円)
65歳以上の方 360円
小中高生 無料
未就学児 無料
※( )内は団体料金(20名以上)
※当日窓口販売は閉場の30分前まで
月曜日(ただし7月15日、8月12日、9月16日、9月23日は開場)、7月16日、8月13日、9月17日、9月24日
美術奨励の日:
会期中の毎月第2土曜日(7月13日、8月10日、9月14日)
金沢市民の方は本展を無料でご覧いただけます(要証明書の提示)
金沢21世紀美術館 TEL 076-220-2800
開館20周年にあたり、一年を通して美術館の最も重要な役割であるコレクションについてご紹介する大規模なコレクション展を開催いたします。当館のコレクション活動は開館前の2000年から始まり、学芸員の調査研究に基づき毎年欠かさず新しい作品を収集してきました。開館時までに約200点あったコレクションは、現時点では約4,200点に達し、当館にとってコレクションは美術館の歴史であり、同時に美術館のアイデンティティを示すものです。金沢21世紀美術館の3つの収集方針「1. 1980年以降に制作された新しい価値観を提案する作品」「2. 1の価値観に大きな影響を与えた1900年以降の歴史的参照点となる作品」「3.金沢ゆかりの作家による新たな創造性に富む作品」に基づき収集されたコレクションは、移り変わる時代の鏡であると同時に、積み重ねられ編まれていく表現の歴史の貯蔵庫でもあります。コレクション展は、世界を見つめ、過去・現在・未来について、共に考え語る場でもあります。展示を通して、この20年を振り返るとともに、これから先の未来について語り合える機会を創出します。
日時:2024年8月17日(土) 16:00〜17:30(開場15:30)
会場:金沢21世紀美術館 レクチャーホール
料金:入場無料、事前申込制(空きがあれば当日参加も可)
定員:90名程度
申込方法:Peatix
日時:2024年8月10日(土)、17日(土)、31日(土) 各日13:00〜15:00
会場:金沢21世紀美術館 創作交流工房
《色盲検査表 No.10》1963年
前期:6月22日(土)-8月12日(月・祝)
1936 年富山県(日本)生まれ、埼玉県在住。
1958 年に金沢美術工芸大学洋画科を卒業後、オブジェ の制作や、ハプニングなど、同世代の前衛作家と交友を 持ちながら、当時の芸術の概念を超える作品を発表。 その後、土方巽との関わりにより、舞踏公演の舞台装 置、ポスター、衣装も手掛ける。1970 年代以降の写真 の切り貼りによる幻想的な作品は、故郷の日本海側の風 景を反映している。前衛的な手法と、土着的な要素を組 み合わせながら、幅広い領域で活動を展開してきた作家 である。
《色盲検査表 No.10》は、赤緑色盲症を発見するための 検査表をヒントに制作された作品。白いカンヴァスに赤 もしくは青緑を基調とした大小の円が配置され、全体と してカンヴァスの短辺に内接する正円を構成している。 一見、無作為に並べられているようだが、遠目には青を基調としたアラビア数字の10が浮かび出るような配置となっている。近くで見ると円の中には、金髪女性のピンナップや1960年代初頭のアメリカの明るく豊かな都市生活のイメージが貼ってある。グラフィック・デザイン的な要素もあるが、グラビア・イメージの選択の仕方、あるいは色盲検査表の構成をベースに遠近により発生する錯視を組み合わせたところに、作者のユーモア感覚が窺える。
前期:6月22日(土)-8月12日(月・祝)《作品》1963年《作品》1964年
後 期 : 8月14日(水)-9月29日(日)《Work》《Work》《Work》2004年
1925 年兵庫県(日本)生まれ、2019 年同地にて逝去。 1954年に結成された「具体美術協会」の草創期のメンバーで、その後も AU(アーティスト・ユニオン)などの様々な活動において、ブリキを用いた立体作品、パフォーマンス、絵画といった多様な作品の制作を行った。 数十年に及ぶ制作活動を通して、山崎は一貫して実像と 虚像、視覚・認知・再現をテーマに制作を続け、個と世界との関わりについて独自の視点で表した。
1960年代の《作品》2点(前期展示)は、幾何学的な構成に有機的なフォルムを組み合わせた絵画。様々な色彩や形態で埋め尽くされた画面は、圧倒的な存在感を放つ。《Work》の作品群(後期展示)は、工業用染料をブリキ板にたっぷり流して制作された作品。山崎の活動初期の制作スタイルを、半世紀を経て21世紀にリバイバルさせたものである。いくつもの色が重ねられたブリキの面はまるで鏡のように、作品と向き合うわたしたちの姿をも映し出し、現実空間を作品世界へと引き込む。
《Untitled》1997-2004年《はたらけはたらけ》《Friction/トイレはどこですか》《Feel Your Gravity》2005年 《Life's An Ocean/Dead Finks Don't Talk》2007年
1970 年神奈川県(日本)生まれ、同地在住。 美術専門学校にて油絵を学ぶが、次第にインスタレーションや立体へと移行し、1990年代中頃より作品を発表し始める 。1999年から2度にわたりドイツに滞在し制作。在学中より、ドローイング帳にアイディアや夢日記を描きため、あるいはヴィデオで撮りため作品化していく。日用品等の身近な素材やシチュエーションを用いて表現する木村の作品には、独特なユーモアと親しみやすさ、そして気味悪さが混在し、しばしば生理的な不快感を伴う。
《Friction / トイレはどこですか》では、隣接する時計の針がぶつかり、時が進むことを阻み合う針の振動と機械音で、周囲の鑑賞者の好奇心を誘う。さらに、女性誌を用い、その中の複数の目を切り出し抽出した 《Feel Your Gravity》では、制度と監視の下に生きる人間の群集心理を浮かび上がらせる。
《金沢の自動ドア》2004年
1961年ブリュッセル(ベルギー)生まれ、ストックホルム(スウェーデン)在住。 植物病理学と農業昆虫学を学び博士号を取得した後、1980 年代後半から芸術家として活動を 開始する。単体の立体作品から空間全体に及ぶ大規模なインスタレーションに至るまで、様々 なメディアを駆使したその表現は多岐にわたるが、その手法は概して科学的で高度な技術に立 脚しており、その体験を通じて我々は、自分の知覚の不確からしさと現実への懐疑を痛感する。 そうして撹拌させられた我々の感性は拡張し、さらなる未知の美的体験と出会うのである。
《金沢の自動ドア》は 5つの自動ドアから成る。展示室から展示室へと至る途中の通路に設けられたこの両開きのドアは、その全面が鏡でできており、鑑賞者は扉を通り抜けるたびに鏡 に覆われた世界に身を置かされる。自動ドアの開閉する動作が一瞬の間だけ我々を日常に引き戻そうとするが、いくら通り抜けてもそこは前と同じ空間の繰り返しだ。しかしながら、不意に予期せぬ別の鑑賞者がドアの向こうから現れ、この無機的な体験の反復を挫き、様々な感情を各々に湧き上がらせる。複数の鑑賞者の介在によって作家の築いたシステムに予想外の 出来事が引き起こされながら、だからこそその体験が一層豊かになる作品であり、人々の行き交う美術館の廊下の特性を巧妙に利用している。
前期:6月22日(土)-8月12日(月・祝)
《work 1998-1》《work 1998-2》《work 1998-3》1998年 《work 2000-1》《work 2000-2》2000年《work 2001-1》《work 2001-2》《work 2001-6》2001年
1960 年東京都(日本)生まれ、石川県金沢市在住。 松田権六の白鷺を卵殻技法で表現した作品に感銘を受け、漆を志す。金沢美術工芸大学・同大学院で漆を学び、在学中よりグループ展に多数参加。大学院修了後は多くの国際展にも参加し、作品の評価が高まる。現在、金沢美術工芸大学学長。
山村の作品の特徴は、片手にのるほど小さな形の中に驚くべき多彩な表情を実現すること、漆という変幻自在な素材の可能性を自らの手で細やかにそして大胆に引き出すこと、そして抽象性の中に様々な地域・時代の文化ルーツが融合されていることである。「work」シリーズは、漆の様々な技法(蒔絵、平文、卵殻、螺鈿など)を自在に応用して作り上げた作品群である。 どの作品も手のひらにのるほど小さいが、その小さな形態ひとつひとつの中には、表情豊かなミクロコスモスが凝縮されている。朱や黒漆の落ち着いた色合いや、艶を見せながら、塗装としての漆の表面美を表す作品もあれば、卵殻や夜光貝で表面を覆うなど、接着剤としての漆を用いつつ、様々な素材の表情を引き出す作品もある。真鍮や木片、鹿の毛などの素材 を組み合わせ、見る者の感覚を刺激し、想像を自由に膨らませる。それだけでは形を保ち得 ない漆が多様な素材と結びつく中、その姿・性質・印象の無限の可能性を示唆している。
前期:6月22日(土)-8月12日(月・祝)《冨貴草蒔絵平棗》1981年
1912 年石川県金沢市(日本)生まれ、1998 年同地にて 逝去。 石川県立工業学校漆工科描金部に学んだ後、東京美術 学校工芸科漆工部に入学し、六角紫水、松田権六、山 崎覚太郎らに師事。卒業後は理化学研究所にて金胎漆 器を研究する。戦後は、1946年第1回日展への出品を もって創作活動を本格的に開始。卵殻技法を用いた繊細 で豊かな表現力で評価を高めていった。また、アルミニ ウムを電解処理して素地を作る金胎技法の研究において も大きな業績を残した。1983年、勲四等瑞宝章を受 章。1985 年、重要無形文化財保持者に認定。
寺井が60代後半に制作した《冨貴草蒔絵平棗》では、 白い卵殻の裏側に色漆を施すことでほのかな色味が生ま れ、また、平文や螺鈿、金粉蒔きなどの蒔絵の手法を駆使することで蝶や花が棗の胴部分に 描かれている。卵殻の巧みな技術と卓越した造形感覚により、多くの作品において鳥や植物 などのモチーフが深みと情感をもって表情豊かに表されている。
前期:6月22日(土)-8月12日(月・祝)《更紗蒔絵十字架》2007年 《蛍蒔絵聖卵》2010年
1952 年石川県(日本)生まれ、同地在住。
北村辰夫は漆工房の主宰者兼プロデューサーで作品は「雲龍庵」の名で制作する。漆技法のうちでも、螺鈿、蒔絵に長けており、中でも印籠制作や杣田技法の復興など、消えた細密技法の再興に力を入れてきた。近年では、「雲龍庵」工房で制作するオリジナルの作品だけで なく、木工、金工、房紐、彩絵、陶磁器など、多岐にわたる工芸技術を必要とする「十種香箱」「貝桶調度」などの江戸時代の大型の大名道具の復元などに力を注いで、若い世代への技術継承を集団的に行うプロジェクトを行っている。また、160 年の歴史を持つアメリカ最古の時計ブランド「ウオルサム」とのコラボレーションなど、海外の有名ブランドや独立時計師との共同作業にも積極的に関わる。
雲龍庵の漆芸作品の多くに共通する特徴は、細密に施された螺鈿と切金にある。十字架、聖卵、伽羅箱とデザ インや用途は異なるが、どれも過剰なほどの装飾性を持っており、金と青貝の作る文様の美しさに心打たれる。 この技法を「彩影蒔絵」と名付け、青貝と切金を組み合 わせた伝統技法である杣田細工に、新たに立体感を伴う陰影表現を与え、角度によって深みのある豊かな彩りを生み出す雲龍庵独自の技法としている。杣田細工は、 17 世紀に富山藩が京都から招聘した杣田清輔によって確立された細密な研ぎ出し蒔絵の一技法であったが、19 世紀後半に消滅した。それを復興し、現代的な表現にまで高めたのが彩影技法であり、それをふんだんに使って作られたのがこれらの作品である。日本の伝統技法をもとにしながらもどこか日本離れしたデザイン感覚は雲龍庵の特徴であり、独自の世界観を持っている。
後 期 :8月14日(水)-9月29日(日)《支えられた記憶》2001年《《支えられた記憶》のためのドローイング》2001年
1951年岩手県(日本)生まれ、2024 年3月逝去。 舟越桂は 1980 年代より木彫による半身の人物像の制作。 頭部と胴部にはクスノキを用いて彩色を施し、眼球には彩色した大理石をはめ込む手法は、その初期から一貫している。頭部の滑らかさや繊細さと、作品全体に残る鑿痕(ルビ:さっこん)の力強さの調和が特徴的である。一具象彫刻にとどまらず、神仏像などにも通じる精神性を宿した人物像には、 静謐さと気高さが漂う。
舟越の作品には、滑らかで繊細な頭部の仕上げと荒々しく力強い胴部とのバランス、木肌を残した彩色の手法が 作り出す温かくも涼しげな空気感など、相反する特性の絶妙な組み合わせが特徴的である。《支えられた記憶》では、ひとつの身体に2つの頭部が据えられている。この作品は、学生時代、自らもラガーマンであった舟越が実際に見たラグビーの試合の光景がもとになっている。試合中、脳震盪を起こした選手がチームメイトに支えられながら競技場を去った場面を作品化しようと、作家は 20 年以上も構想を温めていたという。また、この作品 には準備段階の素描が多く残っており、ひとりがもうひとりを抱きすくめる構図や2人の男の顔がひとつになっている構図など、試行錯誤を繰り返した様子が窺える。《「支えられた記憶」 のためのドローイング》は、その最終的な素描の 1点である。
《青い家》2001年《黒い力》2003-2004年
1960 年リオ・デ・ジャネイロ(ブラジル)生まれ、同地在住。 1980年代より独自の絵画技法を確立し、新たな表現を築き上げてきた。一見するとコンピュータ・グラフィックによって計算され配置されたかのようなモチーフの躍動的な重なりが特徴的なベアトリス・ミリャーゼスの作品世界は、実際は全て作家本人が長い試行錯誤の時 間を経て作り上げたものである。ミリャーゼスは一貫して、自身の精神及び身体と制作プロセ スにおける絵画の構成要素との関係に重きを置いて制作している。多様なエネルギーが満ち溢れる作品は、今日の絵画表現に新たな可能性を切り開いている。
ミリャーゼスは作品制作において、ほとんどの場合下絵を用意しない。背景の大部分は、直接カンヴァスに描いていく。花や 幾 何 学 的 模 様といったモチーフは、いったんビニール製のシートに描かれたものを乾かした上で転写される。画面全体はフラットな印象に支配されているが、モチーフをビニールシートから剥がす時に生じる剥離によって、古びた壁面のような効 果も生み出されている。数年間に何度も用いられることもあるビニールシートに蓄積された色や形の痕跡は、作家自身の感情や記憶とさえ読み取ることができるほど、ミリャーゼスの絵画作品には情念的な世界像が全面に感じら れる。このような世界は、《青い家》、《黒い力》といった詩的なタイトルによってさらに強調される。
《ダイヤモンド・ダスト・シューズ》1980-1981年
1928 年ピッツバーグ(米国)生まれ、1987年ニューヨークにて逝去。 チェコスロバキアからの移民の子として生まれ、カーネギー工科大学で広告美術を学んだ後 に、ニューヨークにて 1950 年代中頃から商業デザイナーとして活躍。1960 年からはファイ ン・アートの領域に進出し、大衆的なイメージをシルクスクリーンの技法で大量に繰り返す作品で圧倒的な成功を収めた。他にも雑誌の創刊や実験映画の制作、音楽プロデュースそして マスメディアへの多岐にわたる出演など、サブカルチャーに与えた影響も計り知れない。
《ダイヤモンド・ダスト・シューズ》は、1979 年からアンディ・ウォーホルが開始した、自らの代表的なモチーフを再引用したレトロスペクティヴ・シリーズのうちのひとつである。彼は商 業デザイナーとして活動していた1955年から、靴の専門店 I. ミラー社より発注を受けて婦人 靴の挿絵を数多く手掛けており、本作はそうした最初期の題材に言及している。当初はダイヤモンドの砕粉の使用が検討されたが、物質的な輝きを強調するため最終的にはガラスの粉が 採用された。靴を描いたイラストによって商業美術界での大きな成功を手にしたこと、また当 時彼は靴のイラストに著名人の名前を冠し発表していたことなどから、靴はウォーホルにとって名声や成功の隠喩であったと言え、ここではダイヤモンドという富の象徴によってそれが一層強調されている。
《コスモス》1998年
1962 年東京都(日本)生まれ、東京都、ニューヨーク(米国)在住。 東京藝術大学で日本画を学び、1993 年同大学大学院美術研究科博士後期課程修了。1989 年の初個展で日本画とプラモデルを用いた作品を発表。以後、アニメ、マンガ、大衆文化、オタクなど日本文化の独自性を前面に押し出す手法で、欧米主導の美術文脈や既成概念の再解釈に挑戦してきた。その活動は、ファッション産業とのコラボレーション、展覧会企画、 アートフェア「GEISAI」の主宰など多岐にわたる。
《コスモス》は、古典画題の花とアニメやマンガのキャラクター的要素を連結させた絵画。作品名は、万物はスパイラル構造から成るという宇宙の基本原理に由来する。徹底した正面性 と平面性から導かれる無重力感、無個性な笑みを浮かべた花々の浮遊感は、現代人の心理を映し出す。
《無題》2000年
1965 年ブリストル(英国)生まれ、ロンドン、デヴォン在住。 ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジ在学中の 1988 年、同世代の仲間を率いて「フリーズ」展を自主組織。1980年代後半、それまで停滞していた英国現代美術に旋風を巻き起こし、世界的にその存在を認知させたYBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)現象の中心的存在である。荒々しくも静謐で、残虐さと美が共存し、矛盾や重層性を孕んだ作風は、人間の存在の根源的な問題を扱っている。
1991年の個展「愛の内と外」以降、デミアン・ハーストは、蝶を用いた絵画を継続的に制作している。愛や生を表すハート型の形体を持ち、艶やかなピンク色のカンヴァス上に羽の一部 が溶け込むように複数の蝶の屍が貼り付けられた本作品には、生物の死骸というイメージが引き起こす衝撃と色鮮やかな蝶の屍の美しさが混在する。死という逃れ得ない事実を突きつけ ることによって生命の躍動感を喚起させるハーストの姿勢が窺える。
《二重の太陽》2006年
1958 年モルツェル(ベルギー)生まれ、アントワープ在住。1980年から1982年までアントワープ美術アカデミーで絵画を学び、1982 年から1986 年までブリュッセル自由大学で美術史を学ぶ。タイマンスは日常の中で彼が直接、あるいはテレビ・新聞などから間接的に目を留めた場面を対象とし、ありふれた日常風景から政治や宗教、歴史といった壮大な題材まで、断片的に無機質に描く。また、カットアップ、クローズアップ、モンタージュなど、映画の技法を取り入れることにより、イメージの断片を再構成して絵に描き表すという手法をとる。そうして断片化した彼の絵画群は、日常に秘められたイメージの持つ、固有の、そして最も純粋な様相を現前に映し出す。
《二重の太陽》は大胆かつ明快な構図や色使い、画像のぼかしにより、幻影、浮遊感がより強調されている。また、イエズス会のシンボルである二重の太陽という題材は、同時多発テロなどの権力闘争といった現代社会への考察とも見ることができる。感情的表現を一切排除したような静寂な表現であるがゆえ、見る者に実体の捉えよ うのない不安定さや不安感を想起させる。
《アブストラクト・ペインティング(CR 845-5)》《アブストラクト・ペインティング(CR 845-8)》1997年
1932 年ドレスデン(ドイツ)生まれ、ケルン在住。 東ドイツ政府の下で美術教育を受けたが、西ドイツ旅行中に出会った抽象表現主義に強い影響を受け、ベルリンの壁ができる半年前にデュッセルドルフへ移住。あらゆる存在を反映する基盤として「シャイン」(光、見せかけ、 仮象)をテーマとし、高度な絵画技術をもって多様なスタイルを同時期に並行させ、可視性と不可視性、写真と絵画、現実と虚構との境界を行き交いながら、「見ること」を探求し続けている。「アブストラクト・ペインティング」シリーズでは、即興的かつ無意識的に組み合わせた色彩を多層化させている。
《浮くもの/沈むもの》2008年
1969 年兵庫県(日本)生まれ、沖縄県在住。
1990 年代初頭より世界中を旅しながら、人間の生き方や新しいコミュニケーションの在り方に関するパフォーマンスやインスタレーション作品などを制作している。パリのポンピドゥ・センター、ロンドンのヘイワード・ギャ ラリーなどでのグループ展や、2003 年ヴェネツィア・ビエンナーレ、2006 年サンパウロ・ビエンナーレなどの国際展に多数参加。2013年、金沢21世紀美術館にて個展を開催。
《浮くもの/沈むもの》では、近隣の八百屋で選ばれた野菜が丁寧に水槽へと収められ、水中を漂いながら「作品」として新たな生を受け、鑑賞者と接する。浮いたり、沈んだり、水槽の中を漂う野菜は傷む前に交換され、食べるよう指示されている。つまりは野菜が、作家と業者、 鑑賞者そして学芸員らに展覧会期中、絶えず対話を設ける契機を与えているのだ。
《ダプンタ・ヒャン:知識の伝播》2016-2017年
1964 年シンガポール生まれ、同地在住。
音楽、ヴィデオ、パフォーマンス、彫刻、ドローイング、インスタレーションなど、さまざまな手法によって、東アジアの海域を国家国境と関わりなく往来する人々の歴史に思いを馳せる作品を発表。ラタン(籐(ルビ:とう))や糸など自然の素材を用い、抽象的なイメージで力強いメッセージを伝える。自身の過去作を蜜蝋で固めるなど、時間と空間を埋める身体行為にも強い関心を寄せる。
《ダプンタ・ヒャン:知識の伝播》は、シンガポールの TheatreWorks によるアーティストレジデンシー・プログラムの一環として、2001年にリアウ諸島の古くからの住民であるオラン・ラウト(海の民)を探して、ザイが行った調査から始まった。その3 年後、ザイは古代マレー語の民俗劇「マク・ヨン」の演劇集団に遭遇し、彼らの芸術形態と協力関係を築いてきた。 ザイのオラン・ラウトとマク・ヨンのパフォーマーとの出会い、そして差別を受けていた古い伝統の担い手との出会いは、マレーの歴史を深く掘り下げ、中心人物である古代マレーの初代の王ダプンタ・ヒャン・ジャヤナサの名を掲げるインスタレーション・シリーズへと発展した。
《ピン=ポンド・テーブル》1998年《フェンスの中の石》1989年 《無題》1992年《無題》《無題》1993年 《アトミスト:ダブルスタンプ》《焼けたノート》1996年 《缶の生け垣》「ペンスキー・プロジェクト」シリーズ(3点)1998年 《かつてのステンドグラス窓》《無題》《無題》2000年 《怖れるな》「カタガミ・プリント」シリーズ(7点)《東京の雨》 《椅子の中の犬》《転がされたインク》《スターのキャップ》2001年
1962 年ベラクルス(メキシコ)生まれ、メキシコシティ(メキシコ)、ニューヨーク(米国)在住。 写真、ドローイング、彫刻、映像、インスタレーションなど、多岐にわたるオロスコの作品は、既成のものに手を加え、変形し、日常のありふれた光景に介入していく手法をとる。新聞やスポーツ雑誌の写真に幾何学的なパターンを重ねた作品、骸骨の全面に市松模様を施した 作品、車を縦に切断してひとり用の車に組み替えた作品など、既存の秩序を転換し、もの・ ことの間に時空を超えた意味や繋がりを見出す。数学を学び、建築にも造詣が深いオロスコ は、宇宙に存在する一切のものの連なりの秩序を独自の視点で捉え直す。
既成の物事や状況にわずかに変更を加えたり、幾何学的要素をもって介入したりするオロスコ の制作姿勢は、1996 年にロンドンの「エンプティ・クラブ」展で発表された「アトミスト」シリーズに顕著である。スポーツ紙面の写真を切り抜き、円を基軸としたパターンを配した本作 は、古代ギリシャの哲学者デモクリトスの原子論(アトミズム)に由来する。《ピン = ポンド・ テーブル》はゲームに着目するオロスコの代表的な作例。卓球台はクローバーの形のように 4 方向に開かれ、中心の窪みには、水が張られ、蓮の花が浮かべられる。従来のゲームに新た な形が加えられることにより、ルールの発見と体験などの鑑賞行為自体が作品の創造と密接 に関わる。現実への鋭い洞察力と卓越した造形感覚は、ドローイングや写真作品にも見られる。オロスコの表現は、日常を創作の場とする姿勢を象徴的に示し、思考、造形プロセス、 表現の形、鑑賞行為の中に新たな関係性や視座を見出そうとする。
《植物の記憶 / Subtle Intimacy 2012-2023》2023年《Reminiscences of the Garden -from Jacob Knapp-》 2022-2023年《Reminiscences of the Garden -from Jacob Knapp-》 2022-2023年
1984 年高知県 ( 日本 ) 生まれ、石川県金沢市在住。 武蔵野美術大学でガラスを専攻後、渡米してロードアイランド・スクール・オブ・デザインで 修士課程を修めた。帰国した 2012 年以降、身近な自然や環境をテーマに、五感を蘇らせる 記憶の器としてのガラス作品を制作している。
本シリーズでは、板ガラスの間に身の回りの植物を挟み、焼成して残った植物の灰や気泡を痕跡として閉じ込めている。《植物の記憶 / Subtle Intimacy 2012-2023》は佐々木が2012年から2023 年まで10 年以上に渡って収集した「時間を封じた」植物の集大成で、自分がいる場所で感じた「かすかな懐かしさ」を表現している。佐々木は、普段は目に見えない身の周りの環境を、ガラスに植物を封じ込めることによって視覚化している。それは、採取された植物内部に浸透している大気中の水分や、土の成分がガラスの中に現れてくるからである。また、 ガラスに光を通すことで、植物の灰が透け、肉眼では普段捉えられない微細な葉脈が浮かび上がる。このガラス特有の繊細さが、現代美術の表現で頻繁に取り上げられる「記憶のアーカイブ」のテーマと非常に調和していると言える。人間ではない「植物」に自身の記憶を仮託しているところに、本作品が植物と人間の新たな関係性を提示している。
《Happy Paradies(ハッピー・パラダイズ)》2015年 ※2024年9月8日(日)まで
1960 年鹿児島県(日本)生まれ、福岡県在住。京都市立芸術大学在学中は演劇活動に没頭し、その後、地域社会を舞台とする表現活動を志向して、京都情報社を設立した。同大学院修了後、青年海外協力隊員としてパプアニュー ギニア国立芸術学校に勤務後、都市計画事務所勤務を経て 1992 年に藤浩志企画制作室を設立。各地で地域資源・適正技術・協力関係から発生する表現活動を志向する。
2000年に福岡で誕生した「かえっこ」は、遊ばなくなったおもちゃを利用して物々交換する仕組みを藤が考案したものであり、子供の自発的な活動を促すものとして、全国の公共施設や商業施設など数千か所で地元の人々によって開催されている。それらは、環境教育、防災教育など、地域が抱える様々な問題に対応し、地域そのものを “かえる” 活動として多様な広がりをみせている。
《Happy Paradies(ハッピーパラダイズ)》は、同年から15年間、「かえっこ」のワーク ショップが全国で繰り返し開催された結果、最後まで交換されずに蓄積した大手ファストフー ド・チェーンの子供向けセットのおまけを主な素材としている。本作品では、おもちゃを並べ る展示作業を、作家以外の他者が創意をもって行うことで、その表情が変化することもインスタレーションの背景にあり、「かえっこ」の活動それ自体を明示する作品とも考えられてい る。作品タイトルが「Paradise(パラダイス)」ではなく、死を意味する英語のdieと掛け合わされていることから、現代の消費社会の残滓を象徴するメッセージと読むことができる。
《発酵作用》2016年
ヤコブ・フィンガー:1968 年ロスキレ(デンマーク)生まれ、コペンハーゲン在住。 ビヨンスティヤン・クリスチャンセン:1969 年コペンハーゲン生まれ、同地在住。 ラスムス・ニールセン:1969 年イェリング(デンマーク)生まれ、コペンハーゲン在住。
1993 年に結成したアーティスト・ユニット。 コペンハーゲンを中心に世界各地でプロジェクトを展開している。グラフィック、映像、建築など、様々なメディアを駆使し、プロジェクトに多角的な視点を織り込み、コミュニティに内在する課題や関係性に、そこで生活する人々自身が気づくことのできるプラットホームの創出を得意とする。彼らは、作品を「ツール(道具/手段)」と考え、展覧会やプロジェクトを今日的課題について人々が自ら考えることを促すための思考/試行的空間とみなしている。
《発酵作用》は、2016年度に当館で開催したプロジェクト「SUPERFLEX One Year Project – THE LIQUIDSTATE / 液相」の作品のひとつである。来場者の吐く息や湿気など を除湿器で集め、除湿後の水、茶葉、紅茶キノコの菌(スコビー)を使って発酵飲料(コンブチャ:kombucha / 紅茶キノコ)を生成し保管する。その後、美術館で使っているコピー用紙をこの液体で染め、館内で乾燥させる。Liquid(液体)は再び美術館内に気化して戻り、コンブチャ・ペーパーは日常的に使用されることで、新しい持ち主の手元へ届く。水分は還 元され、紙は使用され、という循環の過程を導く。一連の作業を行うのはアーティストでは なく地域住民や美術館を訪れる来館者であり、このツールを使って、参加者による多様な活動が奨励されている。本作品は、金沢21世紀美術館が実践している、地域とどのような関係 を構築するかというスタディを形にしたもので、ツールを介して、コミュニティを醸成しようという試みをプロジェクト化したものである。
金沢21世紀美術館[公益財団法人金沢芸術創造財団]
北國新聞社