コレクション展1 それは知っている:形が精神になるとき

2023年4月8日(土) - 2023年11月5日(日)

インフォメーション

期間:

2023年4月8日(土) - 2023年11月5日(日)
10:00〜18:00(金・土曜日は20:00まで)

会場:

金沢21世紀美術館
展示室1〜6

料金:

一般 450円(360円)
大学生 310円(240円)
小中高生 無料
65歳以上の方 360円
※( )内は団体料金(20名以上)
※当日窓口販売は閉場の30分前まで
WEBチケット購入はこちら

休場日:

月曜日(ただし7月17日、9月18日、10月9日、10月30日は開場)、 5月14日(日)、7月18日(火)、9月19日(火)、10月10日(火)、10月31日(火)

市民無料の日:11月3日

美術奨励の日:会期中の毎月第2土曜日(4月8日、5月13日、6月10日、7月8日、8月12日、9月9日、10月14日)


金沢市民の方は本展を無料でご覧いただけます(要証明書の提示)

お問い合わせ:

金沢21世紀美術館 TEL 076-220-2800

形と精神の関係は、世界を認識し解釈する能力に関わる普遍的なテーマとして、古来より芸術作品を通して探求され続けています。精神や生命が生み出すエコロジー(生態学)とは何かを問い続けたグレゴリー・ベイトソンは、形と形の相互の関係やそれぞれのパターンをつなぐ大きなネットワークとしての「精神 Mind」がある、とも述べています。目に見える、見えないを問わず、自然、社会、言葉、夢といった様々な形のパターンは世界の至る所に生じています。私たちは日々、形同士の関係や類型からおのずと生じる、個人の心よりも大きなシステムとしての精神をどこかで感じています。こうしたパターンや構造は、地球や生態系の基礎となる関係やつながりが生み出す大きなネットワークの一部であり、私たちが世界を解釈し、相互作用する方法の背景となるものではないでしょうか。このような大きなテーマに挑むため、形やパターンがどのように私たちの知覚や世界の理解を形成するか、そして「精神」と呼べるようなものとどのように結びついているかを、美術の歴史もまた考え続けています。本展では、1960年代から最新の作品まで、絵画、立体、写真、映像、インスタレーションといった多様な当館コレクション作品と、本展に合わせて招へいしたアーティストの作品を組み合わせることで、様々な形同士の関係が知っている精神のプロセスをめぐる旅へと誘います。

関連プログラム

キュレーターによるギャラリー・ツアー

日時:2023年5月27日(土)15:00〜16:00頃
   2023年6月10日(土)15:00〜16:00頃 (美術奨励の日:毎月第二土曜日)
会場:金沢21世紀美術館 展示室1〜6
受付:レクチャーホール前
定員:20名 *当日受付、先着順
参加費:無料
(但し、本展の観覧チケットあるいは友の会会員は入場チケットの提示が必要)

出品作家 (予定、アルファベット順)

  • 青木克世、リジア・クラーク、フェデリコ・エレロ、樫木知子、川内倫子、小西紀行、ジョセフ・コスース、イ・ブル、中川幸夫、沖潤子、トニー・アウスラー、ペドロ・レイエス、ヴラディーミル・ズビニオヴスキー
    招へい作家:松田将英、田中里姫

展示室解説

  • リジア・クラーク《動物ー二重の蟹》1960 年
    金沢 21世紀美術館蔵
    ©“The World of Lygia Clark” Cultural Association photo: SAIKI Taku

    つながり合うパターン(展示室1)

    リジア・クラーク
    1920年ベロ・オリゾンテ(ブラジル)生まれ、1988年リオ・デ・ジャネイロにて逝去。

    リジア・クラークの「動物」は、1959年頃から制作された世界的に知られるシリーズです。アルミニウムの板を組み合わせて、蝶番によって動くようになっており、鑑賞者は自由に動かして様々な形を生み出すことが出来ます。その有機的な形体や背骨のような蝶番から、「動物」と題されていますが、本作から生まれる様々な形や構造は、自然や生物の原理に由来する無数の有機的なパターンであるとクラークは考えました。また、「動物」は鑑賞者が動かすだけではなく、作品自らが動き出すような「生命」であるとクラークは述べています。作品と鑑賞者とのあいだに築かれる双方向的な関係性によって、参加型で民主的な芸術の創造を目指し、ブラジルで生まれたこの金字塔的作品から、「形」と「精神」の関係をめぐる本展が始まります。

    「動物たち」──この時期の作品群に、私はこういう名前をつけた。どの作品も根本的には有機的な性格をもっていたから。それに、板どうしをつないでいる蝶番をみると、私は脊髄を連想するのだ。金属板の配置を変えると「動物」の体勢が変わる。一見すると、体勢は無限にあるようにみえる。「動物」ができる動きはいくつあるかと訊かれると、私はこう答える。「私にはわかりません。あなたにもわかりません。でもそれ(「動物」)は知っている......」。
    (リジア・クラーク『動物1960』より)

  • 川内倫子《無題》2020年 金沢21世紀美術館蔵
    ©Rinko Kawauchi

    惑星的な結びつき(展示室2)

    川内倫子
    1972年滋賀県(日本)生まれ、千葉県在住。

    川内倫子は、主に写真によって、日常の断片が持つ曖昧さ、生と死の脆さや危うさ、畏れといった生命に潜む独特の雰囲気を表現する作品を生み出しています。ここでは2020-21年の新型コロナウィルスの感染拡大下で、自らの生活の周辺を繊細な感性でとらえた当館収蔵作品に加えて、「Mother Earth (母なる地球)」と「Me(私)」を意味する映像作品《M/E》を展示します。川内の作品は、地球という惑星で起こる雄大な出来事と私たちの身近な風景や様々な現象を行き来し、一見無関係に思える様々なイメージのやわらかな連鎖を生み出していきます。「私」と「地球」が地続きに結びついていくことで、生命の神秘のなかに惑星的な精神が生じてくるような感覚を見るものに与えます。

  • ジョセフ・コスース 《北極グマとトラは一緒に戦うことはできない。》1994 年
    金沢21世紀美術館蔵
    ©JOSEPH KOSUTH STUDIO NEW YORK photo: SAIKI Taku

    意味の関係性(展示室3)

    ジョセフ・コスース
    1945年トレド(米国)生まれ、ニューヨーク(米国)、ローマ(イタリア)在住。

    「形」とは目に見えるものだけでなく、メッセージや情報を伝達するパターンのことでもあります。例えば、会話の中での声のトーンやボディランゲージなど、コミュニケーションにおいて、そのメッセージの形がどのように示されるかは、メッセージの内容と同程度に重要です。ジョセフ・コスースは、視覚芸術にとって不可欠と思われてきた形や色に対する執着を否定し、言葉に基づく作品を制作しています。《北極グマとトラは一緒に戦うことはできない。》は、タイトル通りに文字組がなされたネオン管による作品です。このテキストは、心理学者フロイトの著作からの引用で、ネオンの透明感のある光は、この言葉を浮遊させ、鑑賞者はこの謎めいたメッセージの意味合いを探ることを余儀なくされます。本の中で使われていた本来の意味と、鑑賞者の意識の中で産出される意味との間には、多様な関係性が増殖し続けるでしょう。

  • イ・ブル《出現》2001年
    金沢21世紀美術館蔵
    ©LEE Bul
    photo: NAKAMICHI Atsushi / Nacása & Partners

    幽霊の形/形の幽霊(展示室4)

    青木克世
    1972年東京都(日本)生まれ、同地在住。
    樫木知子
    1982年京都府(日本)生まれ、同地在住。
    イ・ブル
    1964年ヨンジュ(韓国)生まれ、ソウル在住。
    中川幸夫
    1918年香川県(日本)生まれ、 2012年同地にて逝去。
    沖潤子
    1963年埼玉県(日本)生まれ、神奈川県在住。

    幽霊は、死者のあらわれであると同時に、過去・現在・未来を行き来するような神話的な存在として、あるいは生者と深い関わりを持った精神的な存在として理解されることがあります。この展示室では、当館コレクションから幽霊的な形を表現する作品を紹介します。SFから古典的な神話に至る様々な文化的引用をもとに、未知のものへの恐怖や身体とテクノロジーの関係を表現するイ・ブルの「モンスター」シリーズや、流麗な描線と透明感のある色彩によって、白昼夢のような幻想的な世界にたたずむ人物を描く樫木知子の《タイルの部屋》は幽霊的な存在をモチーフとして扱います。加えて、死の装飾が植物的に増殖する青木克世の白磁の白一色による《予知夢XXXII》や、ヴィクトリアンジャケットを解体した両袖部分に独自の文様を縫い、失われた身体を想起させる沖潤子の作品は、死の世界を揺れ動きながら私たちと関係を結ぶことで、生についての新しい視野をもたらします。また、ガラスの重みによって腐敗したカーネーションの花液が画仙紙ににじみ出ていく様子をとらえた中川幸夫による《聖なる書》には、死にゆく花が発する生命の最後のきらめきとともに、形そのものが幽霊的な存在へと移行していく瞬間を見いだすことができます。

  • ペドロ・レイエス 《人々の国際連合 武装解除時計》2013 年
    金沢21世紀美術館蔵 ©Pedro REYES
    photo: KIOKU Keizo

    関わり合い(展示室4前)

    ペドロ・レイエス
    1972年メキシコ・シティ(メキシコ)生まれ、同地在住。

    ペドロ・レイエスは、芸術活動による対話を通して人類が抱える危機を解決する道を模索するプロジェクト「人々のための国際連合」(pUN)を行っています。
    《人々の国際連合 武装解除時計》は、メキシコの銃社会を変えるため、不法所持者から回収された銃を再利用して楽器にし、時計を組み込んだ作品です。世界が銃から開放される未来の瞬間を目指して時を刻みながら、15分ごとにパーカッションのような金属音が鳴り響きます。戦争や紛争により世界情勢がますます不安定なものになっているいま、暴力の形を平和的な精神へと生まれ変わらせるレイエスの作品を通して、私たちは社会とこれからどのように関わり合い、未来を形作るプロセスに参加していくことができるでしょうか。

  • ヴラディミール・ズビニオヴスキー《石の精神》2001年 金沢21世紀美術館蔵
    ©Vladimir ZBYNOVSKY
    photo: SAIKI Taku

    熱と重力(展示室5)

    田中里姫 (招へい作家)
    1995年青森県(日本)生まれ、石川県在住。
    ヴラディーミル・ズビニオヴスキー
    1964年ブラティスラヴァ(スロヴァキア)生まれ、シャンティイ(フランス)在住。

    熱や重力は、物理世界を形成する基本的な力であり、パターンや構造の形成に重要な役割を果たしています。熱は、生物と環境の間で絶えず交換されるエネルギーの一形態であり、重力は宇宙に存在する全ての物体の動きに影響しています。 ここでは、招へい作家の田中里姫のガラス工芸作品と、当館コレクション作品のヴラディーミル・ズビニオヴスキーの《石の精神》を紹介します。田中は、熱切り技法でそれぞれの口径を切り離し、薄いガラスの口元の凹凸を手磨きで仕上げ、繊細なガラスの曲面を生み出します。ズビニオヴスキーは、光学ガラス(透過性と純度が高いガラス)の塊を石の上にぬるりと横たわらせ、荒々しい石と透明なガラスを対比します。両者とも、熱や重力によるたわみを表現し、自然の物理法則から生まれる形を活かしつつそれをさらに昇華させています。周囲の空間を変容させる美しい精神が、当館の特徴的なガラスの展示室に立ち現れるでしょう。

  • トニー・アウスラー《エッロ》2003年金沢21世紀美術館蔵
    ©Tony OURSLER
    photo: KIOKU Keizo

    泣き笑いの知性(展示室6)

    松田将英 (招へい作家)
    1986年神奈川県(日本)生まれ、同地在住。
    フェデリコ・エレロ
    1976年サン・ホセ(コスタリカ)生まれ、 同地在住。
    小西紀行
    1980年広島県(日本)生まれ、同地在住。
    トニー・アウスラー
    1957年ニューヨーク(米国)生まれ、同地在住。

    顔の形の様々なパターンの組み合わせから生まれる「表情」は大変に複雑であり、私たちはそこに無数のメッセージや意味、感情を読み取ります。この展示室では、数ある表情のなかでも、特に「泣き笑い」の表情に注目します。喜んでいるようにも、悲しんでいるようにも見える「泣き笑い」は、近年、絵文字として世界で最も使用されている表情の一つでもあります。キャラクターや人の表情を鮮やかな色彩でコミカルに描くフェデリコ・エレロ、うねるような筆致で身近な人々を匿名的に描く小西紀行、奇妙に強調された顔相を映像で描き出すトニー・アウスラーといった当館コレクション作品に加え、コンセプチュアル・アーティストの松田将英を招へいし、泣き笑いの絵文字をかたどった大型のバルーン作品を紹介します。受け取る側によって、次々にその意味を変化させる「泣き笑い」的な表情の数々がざわめくこの展示室では、不気味でありながらユーモラスな顔貌の形の変化と、それに対するいくつもの解釈が現れては消えます。無数の表情が相互に連関することで、いつしか「泣き笑い」という取り留めのない顔が、知性を持った象徴的な存在であるかのように感じられるでしょう。

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クレジット

主催:

金沢21世紀美術館[公益財団法人金沢芸術創造財団]