期間:
2022年4月9日(土) - 2022年9月11日(日)
10:00〜18:00(金・土曜日は20:00まで)
2022年4月9日(土) - 2022年9月11日(日)
10:00〜18:00(金・土曜日は20:00まで)
金沢21世紀美術館
長期インスタレーションルーム
無料
月曜日(ただし7月18日、8月15日は開場)、7月19日(火)、8月16日(火)
金沢21世紀美術館 TEL 076-220-2800
AKI INOMATA(1983-)は、人間と生き物との関係に着目し、動物と共に制作した作品を多く発表しています。本展「Acting Shells」は、INOMATAによる進行中のプロジェクト「貨幣の記憶」を中心に構成されています。2015年より開始されたこのプロジェクトは、真珠貝の中に現代世界の各国の通貨のシンボルとなる肖像を融合させることで、「貨幣の化石」を作り出す試みです。人類は、古代から貝殻を重要な貨幣の一つとして用いてきました。仮想通貨や電子マネーが席けんし、物理的な貨幣と置き換わろうとしている今日、本プロジェクトは、あえて貨幣の歴史を遡ることで、過去と現在を横断し、私たちを取りまく経済・社会システムを新たに見つめ直す機会を鑑賞者に与えます。
一方、貝殻(shell)は本来、貝の身を守るシェルターや「やど」の役割を果たしています。本展は、ヤドカリやアサリなど、私たちと異なる生物種にとっての「シェル」の意義を多角的に捉え、人間社会や生命の進化史と、彼らの能動的な振る舞い(act)との結びつきを考えます。INOMATAの作品は、他の生物種や私たちにとっての多様な「シェル」の意味合いを提示し、様々な時空間への想像力に働きかけるでしょう。
期間:2022年6月4日(土) 16:00〜17:30(開場 15:30)
会場:金沢21世紀美術館 レクチャーホール
定員:90名程度(要事前申し込み・先着順)
料金:無料
申込方法:WEBお申し込みフォーム[5月20日(金) 10:00 より受付開始]
最初から意図していたわけではないものの、私の作品は生き物の〈種〉同士の共進化を再創造しようとしているところがある。それらの〈種〉は時に融合し、別のミュータントにもなる。
今回展示する作品――《やどかりに「やど」をわたしてみる》、《Lines-貝の成長線を聴く》、《進化への考察 #1:菊石(アンモナイト)》、そして《貨幣の記憶》――は、いずれも「貝」を素材として用いている。貝は、たとえ生きものとしての活動が途絶えてしまっても、その貝殻はすぐに朽ち果てることなく半永久的に残りつづける。人はそれを貨幣や装飾品として、またやどかりであれば棲家として用いる。そういった再利用を貝が望んだわけではないだろうが、生きている人ややどかりよりも、すでに死んでいる貝の方が長くこの世界にとどまりつづける不思議さがある。
《貨幣の記憶》の撮影地である種子島を訪れたのは、その地の芸術祭に招かれたのがきっかけだった。種子島には広田遺跡と呼ばれる古墳時代の遺跡がある。そこからは白い貝に幾何学的な文様が刻まれた装身具が数多く出土している。それらの貝は島周辺で取れたものばかりではなく、南の島々からの贈与・交換品も含まれていると聞いた。《貨幣の記憶》も作品ができあがってみると、海底から見つかった昔の貝貨がたまたま私の元へ届けられたような気がしてくる。でも、その帰趨を見届け、起きていることを記憶しつづけるのは、先に亡くなってしまう私たち人間ではなく、むしろ貝の方なのかもしれない。
AKI INOMATA
このシリーズでは、真珠貝に福沢諭吉、エリザベス女王、ジョージ・ワシントン、毛沢東、そしてカール・マルクスなど、世界的な通貨経済を象徴する人物像を核として挿入し、その表面を真珠質が覆うことで、真珠化した肖像が貝殻から浮き上がります。本展ではこの実物とともに、貝殻が実際に海の中に沈んでいく様子を示す映像が大きく映し出されています。海底にひらひらと沈むこの真珠貝は、何百年、何千年、何万年、というスケールを漂い、「貨幣の化石」となっていくという物語を私たちに想像させ、生きものと私たちをとりまく経済システムへの内省を促しています。
本作では、作家が制作した世界各地の都市に模した樹脂製の「やど」をヤドカリが背負っています。引っ越し先を選ぶのはあくまでヤドカリですが、一方でどの都市を背負っているかという外側の殻の部分、すなわち「シェル」でしか私たちはこのヤドカリのアイデンティティを判別できないのではないでしょうか。INOMATAは、ここに人種、性別、国籍、学歴、外見などのカテゴリーで他者のアイデンティティを判別するばかりの人間社会を重ね合わせます。ヤドカリは常に自分に合う引っ越し先を探していますが、それは常に平和的ではなく、他のヤドカリを暴力的に追い出しやどを奪うこともあります。身を守るための外殻は同時に、その中身とは関係なく、私たちが何者であるかを規定することがあり、また争いの火種となることもあるのです。透明な都市へと引っ越しを続けるヤドカリの姿から、私たち自身の「やど」について考える機会を本作は与えてくれるでしょう。
アサリの貝殻の断面を切り取ると、「成長線」と呼ばれる無数の線を見ることができます。これは木の年輪と似ていて、この線を通して、潮の満ち引きによって変化する貝の一日ごとの成長の経過を観察することができます。INOMATAは、福島県相馬市で2011年7月と2015年7月に採集した二つのアサリの成長線を写した顕微鏡写真を作品にしています。津波でダメージを受けたあと、大きく成長する2011年のアサリと、護岸工事が続くことによってストレスフルな状態が続く2015年のアサリの違いが、抽象的な書やカリグラフィーのようにして現れます。またこのアサリの成長線をレコードに置き換えることで、彼らが経験した世界を音で疑似体験する作品も展示されています。アサリのシェルから私たちの世界に対する異なった視点をうかがい知ることができるでしょう。
本作は、イカやタコの近縁種であると言われているアンモナイトの殻の形状を、化石のCTスキャンデータから復元し、タコと出会わせた様子を写した映像です。3億年間繁栄したアンモナイトは、6,600万年前に恐竜とともに絶滅しました。一方、タコは進化の過程で貝殻(シェル)を捨てたとされており、柔らかく傷つきやすいその身を守るため、二枚貝などを使って護身することが知られています。本作は、殻に守られたアンモナイトから殻を捨てたタコへと向かう進化の物語に着想を得た、タコとアンモナイトが時間を超えて出会うという、思考実験の旅へと私たちを誘います。
1983年生まれ。2008年東京藝術大学大学院先端芸術表現専攻修了。東京都在住。2017年アジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)の助成を得てニューヨークに滞在。生きものとの関わりから生まれるもの、あるいはその関係性を提示している。ナント美術館、十和田市現代美術館、北九州市立美術館での個展のほか、2021年「Broken Nature」ニューヨーク近代美術館、2021年「The World Began Without Human Race, and It Will End Without It.」国立台湾美術館、2019年「第22回ミラノ・トリエンナーレ」、2018年「タイランドビエンナーレ」など国内外で展示。
アペルト16 AKI INOMATA Acting Shells リーフレット
デザイン:菊地敦己
判型:A5判
頁数:6ページ(ポストカード付)
言語:和/英併記
価格:408円(税込)
販売場所:金沢21世紀美術館ミュージアムショップ
「アペルト」は、若手作家を中心に個展形式で紹介する展覧会のシリーズです。
金沢21世紀美術館は世界の「現在」とともに生きる美術館として、今まさに興りつつある新しい動向に目を向けています。作家とキュレーターが作品発表の機会を共に創出し、未来の創造への橋渡しをします。
国籍や表現方法を問わず、個展開催に十分な制作意欲を持ち、アペルト実施以後のさらなる飛躍が期待できる作家を紹介していくものです。
※「アペルト(aperto)」は、イタリア語で『開くこと』の意味。
金沢21世紀美術館[公益財団法人金沢芸術創造財団]
uroco