期間:
2019年10月12日(土) - 2020年6月14日(日)
2019年10月12日(土) - 2020年6月14日(日)
無料
金沢21世紀美術館 TEL 076-220-2800
私たちは「空間」の中に生きています。さまざまな方法で私たちは空間を認知し、一方で空間が変われば私たちの行動も変わります。つまり空間のレイアウトと人間の行動とは深く関係していると言えます。その関係を解き明かす鍵は一体どこにあるのでしょうか。lab.シリーズの第4回となる本展では、「つながり」や「関係性」という視点から分析や調査を進め、この鍵の在りかを探ります。
そのキーワードとなるのが〈Space Syntax〉です。Space(空間)と、Syntax(言語学における統語論=語と語の関係をもとに意味を導く仕組み)を組み合わせたこの言葉は、1970年代にロンドン大学バートレット校(建築学・都市計画学)のビル・ヒリアー教授が提唱した理論名であり、またその実践に取り組む法人の商標でもあります。空間レイアウトの分析に科学的なアプローチを採り入れ、人間の認知や行動との関係を考察する〈Space Syntax〉の理論と実践は、近年、都市・建築空間デザインの新たな手法として注目されています。
本展は、こうした〈Space Syntax〉の理論と実践を紹介しつつ、会期中を通して金沢21世紀美術館の館内で二つの調査・分析を展開していきます。一つ目は室内行動調査です。機械学習など新しいテクノロジーを用いた映像解析手法を導入し、館内の通路を行き交う人がどのような動線をたどるのか、いつどこで立ち止まり座るのかを観察し、空間レイアウトと人間の認知・行動との関係を分析します。二つ目は当館の展覧会ゾーンを調査の対象とし、来場者の動線調査を行います。この美術館が持つ空間レイアウトの特性を分析し、そのポテンシャルを掘り起こすことで、金沢21世紀美術館の新しい可能性を探ります。
こうした調査活動は、lab.1 OTON GLASSやlab.2 Sightでも活躍したリサーチサポーターの協力を得て進められ、本展の会場となるデザインギャラリーに集積・更新されていきます。ガラスで覆われた透明のlab.に、空間レイアウトと人間行動との関係を解き明かす鍵が見つかるかもしれません。
本展アーカイヴ・サイト
2020年1月にリサーチサポーターと行った空間レイアウトの特性を考える調査をうけ、結果をふりかえり意見交換を行う会を設けます。
日時:2020年6月14日(日) 14:00〜15:30
会場:オンラインイベント(要事前申し込み 申込締切6月13日)
料金:無料
美術館のレイアウトを自由に考えるワークシートを配布しています
期間:シートの募集は6月14日(日)まで
クレヨンやマスキングテープを使った遊びを紹介しています
期間:シートの募集は6月30日(日)まで
日時:2019年10月10日(木) 19:00〜21:00
会場:金沢21世紀美術館 レクチャーホール
料金:無料 ※事前予約不要
休館中の金沢21世紀美術館を歩き、 空間レイアウトの特性や可能性を考える調査を実施します。
【リサーチサポーターA (参加者)】
オリエンテーリングのようにチェックポイントをまわりながら、休館中の館内を散策していただきます。
説明会:2019年12月17日(火)19:00
会場:会議室1
【リサーチサポーターB (リサーチャー)】
参加者の動線や行動を記録します。アーバンデザインや空間レイアウトに興味ある方だけでなく、社会調査や行動調査に関心のある方にもおすすめです。
説明会:1月11日(土)14:00
会場:プロジェクト工房 ※レクチャーホールから変更となりました
※申込受付は終了しました
1970年代にロンドン大学バートレット校(建築学・都市計画学)のビル・ヒリアー(Bill Hillier)教授が提唱した理論をもとに、1989年にロンドンにてSpace Syntax Limitedが設立される。
代表の高松誠治は、2001年にロンドン大学スペースシンタックス研究室において修士号を取得し、2002年から2006年まで、Space Syntax Limitedのプロジェクト・コンサルタント(後に、アソシエイト)として勤務。2004年に受託した日本国内での大規模商業施設再生のプロジェクトを端緒に、2006年、景観、交通工学、建築の専門家らの協力のもとで、アジア初のSpace Syntax Limitedのアフィリエイト・オフィスとしてスペースシンタックス・ジャパンを設立。以来、大規模商業施設のレイアウトデザインのほか、中心市街地や駅前広場空間の再生・整備事業の調査・分析や評価・コンサルティングを行っている。
スペースシンタックス・ジャパンウェブサイト
スペースシンタックス・ジャパン代表取締役
徳島県生まれ。徳島大学工学部卒業、東京大学大学院社会基盤工学専攻修士課程を修了した後、ロンドン大学大学院(The Bartlett, UCL)において先進建築学(スペースシンタックス研究室)修士課程を修了。2002年から06年までSpace Syntax Limited(ロンドン)に勤務し、2006年、スペースシンタックス・ジャパンを設立。首都大学東京や東京大学大学院で非常勤講師を務める。
展覧会「lab.4 SpaceSyntax」記録画像(金沢21世紀美術館/2019年10月12日−2020年6月14日) #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
この部屋(デザインギャラリー)で 「かくれんぼ」をするとき、どこに隠れる? 「おにごっこ」の鬼なら、どこで見張る?
床を見てみてください。敷き詰められた 50cm 四方のタイルには、いくつかの数字が書かれています。 例えば「Connectivity」。左の図では「144」となっています。これは、このタイルから直線を引ける(=曲がらずにたどり着ける)タイルが 144 枚あることを示しています。
ここでみなさんがご覧になっている床(上記の360度ビューをご参照ください)は、4つの指標のうち、近接中心性(インテグレーション)指標をもとに、 ヒートマップとして描かれています。
同じ部屋の中でも居場所を変えると周囲との関係性が変化します。あたりまえのようですが、あまり意識しなかったのではないでしょうか?
人間は、このような場所の力を無意識に感じて、行動を決めています。このことを理解することで、 空間の計画やデザインを合理的に進めることができるのではないでしょうか? このフロアに記されているような客観的な数値を組み合わせて解釈することによって、いろいろなことが見えてきます。
これは、Space Syntax への「入口」です。空間のつながりの可視化、まだまだ続きます。
あたりまえのようで、気付きにくい。シンプルに見えて奥深い。 空間の「つながり」を数字で表すこと。この発見は、ロンドンで起きました。
ロンドン大学は、伊藤博文の留学先となった由緒ある総合大学ですが、世界でも有数の都市・建築学部 バートレット校があることでも有名です。
1970 年代の建築研究の世界において、人類学、位相幾何学、情報科学といった他分野への深い理解をベースとして新境地を切り開いたビル・ヒリアー教授。バートレット校での彼の研究やその論理的な 建築批評は、公共住宅の治安悪化など様々な都市問題を抱えていた英国で大いに注目されました。 その後、多くの議論を通して世界中に研究者のネットワークが広がり、情報処理技術の進化を背景に発 展してきた Space Syntax の理論や手法は、都市・建築プロジェクトで実践的に用いられるようになります。 1989 年に大学発ベンチャー企業として Space Syntax Limited が設立されてからは、ビル・ヒリアー 教授の弟子のひとり、ティム・ストナーを筆頭に多くの実務家が世界中のプロジェクトで活躍しています。
部屋をつくりましょう。壁に窓を開けて、扉をつけます。 部屋はどこですか? その中にある、空っぽの部分です。空間とは、「何にもない」部分です。 しかし、そこで何かが起こる。それこそが機能なのです。 老子『道徳経』第十一章(高松誠治による意訳)
建物について考えるとき、その大きさ、形態意匠、素材、色彩など、構造物そのものに意識が向きがちですが、ビル・ヒリアー教授は、その中にある「空間」に着目しました。 ある「空間」そのものではなく、それが「どこと、どのように、つながっているか」に焦点を当て、つながりをネットワークとしてあらわす研究を行いました。そして 1980 年代前後に、グラフ理論の手法を用いて空間の機能を定量化する手法を考案します。 これによって、目に見えない場所の持つ機能や価値、つまり「レイアウトの力」を定量化、可視化することができるようになったのです。
都市における人の動き。歩く、立ち止まる、周囲を見渡す、経路を選ぶ、 だれかと話す、座る、店に入る、買い物をする、また誰かと出会う。 人の行動データをどのように集めて、解釈し、役立てれば良いのでしょうか?
Space Syntax は、多くの都市研究家が提唱する「観察調査」の手法も用い、あらゆるデータの可視化を考えます。ただ、人の行動が「そこ」で起きることの要因を、空間から考察することが、独自の特徴です。
「都市における人の行動の基本は、移動(通り過ぎること)です。街路構造が経路をつくることによって移動が発生する。都市の賑わい(あるいは閑静さ)、経済活動や、社会的な問題(犯罪の発生やその不安など)も、『人通り』に関係していると言えます。〈中略〉つまり、もっとも根元的なものは、 都市の空間構造そのものなのです。空間構造は、人の活動を通じて街に命を与える、都市の多機能 性の基礎をなしているのです」
ビル・ヒリアー教授 Space is the Machine, p.126, 1996
「私はこの技術が実務で役立つことを知っています。私は、分析・観察・研究の世界と、情熱・曖昧・直感の世界の双方を愛します。スペースシンタックスは、それら異なる世界を相互作用させる試みなのです。」
ノーマン・フォスター(建築家)
ロンドンの中心部に位置するトラファルガー広場。かつては自動車交通に取り囲まれた孤立した空 間、観光客の記念撮影だけのための場所でした。すべての人のための、都市の焦点として相応しい広場とするため、建築家ノーマン・フォスター卿を中心とするチームが編成されました。 現況分析とデザイン評価を担当した Space Syntax チームは、人々の行動の観察から、潜在的な行動欲求を見つけ出し、それが実現するような空間配置となるよう、分析的なデザイン検討を行います。 2003年、新しく生まれ変わった広場では、観光客が次の行き先に向けて各々の方向に自然と歩み出せる配置に。また、近隣住民の多くが立ち寄り、時間を過ごす場所にもなりました。 他者の存在を意識し、時間の流れに思いを馳せる。都市らしい、現代の「広場」としての再生。 Space Syntax による、人と空間配置の関係への考察がそれを支えているのです。
「建築は、衝突の場ではなく、出会いの場である。それは、半アート・半サイエンスではなく、完全にアートであり、完全にサイエンスである。」
ビル・ヒリアー教授
「つながり・関係性からの空間特性の定量化」というのが、Space Syntax の基本的なアイディアです。 これはつまり、広さや大きさ、高さにとらわれない、つまり「あらゆる空間スケールで使える」ことを意味しています。 イギリスでは国土全体の幹線道路ネットワークの分析に、イタリアでは遺跡の分析(古代の部屋の 機能を推測)に用いられました。一方で、商業施設などの屋内空間の詳細なレイアウト分析にも使われています。日本の都市でも、駅周辺や大型商業施設における空間配置検討に使われはじめて15年ほどが経ちました。 商業施設では、顧客に楽しく回遊してもらい、多くの商品を販売し、施設の経済的な価値を高めたいというのが空間レイアウト分析の目的となります。では、美術館のような文化施設では何が求められるでしょうか?
2.〈Space Syntax〉の理論と実践 プレゼンテーションシート
人がそこを通る。全てはそこから始まります。 イスがある。座る。周りを見る。何かに気づく。 他者との距離間、視界に入る人の動き、ちょっとしたコミュニケーション...。 都市的な現象が、ここで起きています。
金沢21世紀美術館の一角で、イスの配置によって、館内の空間レイアウトを変える実験をしています。 イスの配置によって、歩行や着座の行動が変わるか? ひとりで長時間座りたい人は、どのような場所を好むか? イス同士の距離がどれくらいまでだと、グループでの会話が弾むか? 美術館では作品鑑賞以外にどのような時間のすごし方があるのか? 小さいようで、奥の深い実験と言えるでしょう。社会的な、街かどのような、美術館の側面をいくらか示すことができるかもしれません。
3. 空間レイアウトと人間の認知・行動との関係を観察する プレゼンテーションシート(前編)
いえいえ、貴方ご自身に注目しているわけではありません。 そこで起きている「現象」をデータ化することが目的です。 でも、もしかすると「あ、これ私かも。こんな動きしてたのね」 ということがあるかも...。
人の動きに関するデータを得るためには、これまで現地で調査員が観察する方法が主流でしたが、 今回は新たな調査方法に挑戦しています。 機械学習などのデータ解析技術の発展は、映像に映っているものを直ちに認識することを可能にし ました。映像の中の「人間」の特徴をコンピューターが学習し、「これは人間です」と即座に判断で きるようになったのです。
この技術を用いて得られたデータと、Space Syntax の空間指標とを比較検証することによって、美術館でのすごし方に適したイスの配置を考察します。
3. 空間レイアウトと人間の認知・行動との関係を観察する プレゼンテーションシート(後編)
金沢21世紀美術館のレイアウト的な特徴:
1 裏側のない開放的なつくり
2 独立した展示室とそれを結ぶ動線空間
3 仕切りによって変えられる範囲設定
つまり、「街とつながる」「街のような」構成が意図されています。
かつての典型的な展示施設では、中央にコリドーがあり、そこに展示室の入口が複数存在しつつ、 展示室が相互につながり連続した経路をつくっている、という形態が多かったと言えるでしょう。 一方で、金沢21世紀美術館はレイアウトそのものに可変性があること、正面性(方向性)が強調されていないこと、周囲に開く形態となっていること、などが特徴です。 これにより、一般的な施設と比べて、多様な行動パターンが発現する可能性のある施設となっています。
4. 金沢21世紀美術館の空間特性を分析する プレゼンテーションシート(前編)
レイアウトを変えると、来館者の行動はどう変わるのか? わかりやすい? 楽しい? 効率的に動ける? 美術館内として相応しい空間体験とは、どのようなものでしょうか?
2020年1月、休館中の金沢21世紀美術館で lab.リサーチサポーターの協力のもと、行動観察調査の実験を行いました。 展覧会ゾーンでの作品鑑賞時の行動を疑似的につくり、展示室をめぐります。このときの動きを、 詳しく観察し、図面上に表します。
Space Syntaxの空間特性分析との関係はどうなっているか?この比較検証を通じて、館内の行動予測技術の改善を試みます。 今後の美術館の運営や、そのための議論に活かすことができるような知見を見つけられれば、未来の来館者にとっての、よりよい美術館体験の可能性へとつながり、それこそが本展の大きな成果となります。
4. 金沢21世紀美術館の空間特性を分析する プレゼンテーションシート(後編)
スペースシンタックス・ジャパン
高松誠治
小林稜介
山﨑諒介
酒井隆宏
会場設計
設計事務所岡昇平
岡昇平
広瀬裕子
保井智貴
大久保友宏
グラフィックデザイン
根本真路
謝辞
本展開催にあたり、多大なるご協力を賜りましたスペースシンタックス・ジャパン高松誠治氏をはじめ関係各位に深く感謝の意を表します。
またここに全員のお名前の名前を記すことができませんが、調査・実験にご協力いただいた101名のlab.リサーチサポーターの方々にあらためて御礼申し上げます。
展示構成をダウンロード(pdf)
展覧会「lab.4 Space Syntax」では、行動調査や動線分析に携わるリサーチサポーターを募集し、調査に向けてディスカッションを重ね、2020年1月、休館中の金沢21世紀美術館で空間レイアウトの特性を考える調査を行いました。
2020年6月14日には、調査のラップアップセッションを実施し、スペースシンタックス・ジャパン代表の高松誠治氏と調査結果とその分析をふりかえりつつ、リサーチサポーターとの議論を進めました。この動画では前半の高松氏によるレクチャーセッションを公開します。
金沢21世紀美術館[公益財団法人金沢芸術創造財団]