角永和夫《SILK》





角永和夫《SILK》2011年、作家蔵
「サイレント・エコー - コレクション展II」(2011年9月7日—2012年4月8日)展示風景
© KADONAGA Kazuo  撮影:末正真礼生


角永和夫は、アメリカを拠点に国際的に活躍する現代美術の作家である。
紙、木、ガラス、シルクなど卑近な素材を扱いながら、極力作為を排する制作のスタイルを特徴とする角永は一貫して、素材の力を生かし、物事の変容のプロセスを提示しながら、自然と人間の関係性を問い続けている。とりわけ、SILKシリーズは、生命現象そのものを包含する素材の特性から、角永のテーマの中でも中心に位置するものである。

1980年代に角永は繭の状態を作品化し、アメリカで発表。2006年には富山県の発電所美術館展示室内にて蚕が繭を作り蛾となって死ぬまでの全過程を作品化し提示してみせた。金沢21世紀美術館における角永の今回の試みは、蚕が生産する生糸を平面繭というかたちに結晶化させ、蚕を桑の木のある自然界に還すというものである。SILKの物語は、蚕の物語であり、人間の物語である。

新潟の蚕農家の手で育てられた蚕約2万頭が美術館に搬入された。展示室には、角永が考案したシステムによって天地の逆転が可能な9x15mの巨大な網が設置され、このネットに無数の蚕が放たれた。蚕の上方へ昇る習性を生かして、作家は一日に数回ネットの天地を回転させた。作家の介入は潔く、この行為のみであり、無数の蚕が3日3晩かけて広大な平面繭を生み出した。

蚕の約半数は途中で力つきて息絶えてしまう。生き残った半数の蚕のなかには蛹になり、成虫になるものもいるだろう。しかし仮にその成虫が交尾して雌が卵を産み、その卵が孵ることがあったとしても次の世代に生きる力はないという。人間が5千年の時をかけて人工的に改造したこの生き物は極めてか弱く、一代限りという宿命を負っている。そんな命を桑の木のもとに還して見送ることとした。

9月初旬の厳しい暑さのなか、角永は、糸をはき終えた蚕をそっと桑の木のもとに還した。蚕の感触と温度を手に感じながら、角永は森林の中に立っていた。SILKプロジェクトを終える角永の姿は、造形行為の意味のみならず、人間の営み、自然の営みの有り様をも、21世紀を生きる我々に問いかけるものであった。
金沢21世紀美術館
学芸員 村田大輔


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◆プロジェクト記録映像(YouTube)
http://youtu.be/X4Debw2ZU4A