展覧会の概要
『Alternative Paradise〜もうひとつの楽園』展は、ジャンルを超えて、「工芸」の現代的価値を問いかける展覧会です。 西洋の近代主義が世界を席巻した19世紀から20世紀、人間が作り出す「ものの美」の世界は大きくアートとデザインという二つの領域に分化し、それぞれにさらに細分化と交錯を続け多様な展開をみせてきたといえるでしょう。もちろん日本も例外ではありません。明治時代に西洋のFine Art(ファインアート)を「美術」として受け容れて以来、現在の「美術」状況に至るまでの1世紀余り、日本はアジアのなかでも特に急激な欧米化の道を歩んできました。その日本に厳然と、欧米のアートやデザインの概念に収まりきらない領域として「工芸」が存在しています。私たちは何を「工芸」と呼び、そこに何を感じ、求めているのでしょうか。 展覧会タイトルの『Alternative Paradise 〜 もうひとつの楽園』は、工芸的な表現分野が培ってきた美意識や手法、自然や他者に対する姿勢のなかにこそ、20世紀に支配的であった西洋近代主義が目指したものとはまた別の理想卿(もうひとつの楽園)を多様なかたちで見いだせるのではないかという観点に立ち、独自の言葉で語りかけてくる作品のメッセージに耳を澄まそうと呼びかけるものです。そこは、自然と人間、日常と非日常、デザインとアート、伝統と前衛、美術館の内と外など、分断された様々な領域が再びゆるやかにつながる場です。 本展では素材と表現の関係に着目し、国内外の11人の招待作家による作品とともに、「茶室」を現代的に解釈した隈研吾のディレクション、岩井俊雄・原研哉・深澤直人のコラボレーションによる≪T-room≫を展観します。水、音、光、土、木、髪、布、映像、ガラス、プラスティック、人工皮膚など、様々な素材が用いられ、既成のジャンルを横断して展開する現代の工芸的造形世界。ここに集う表現に共通するのは、自然を征服し支配するのではなく、むしろ寄り添って親密に交流し、素材を生かし他者を生かしていくという生成の過程に注がれた眼差しのやさしさです。そこには、前世紀のうちに稀薄になってしまった私たちの生の実感を取り戻す手がかりがあるのではないでしょうか。 |
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