村上慧 移住を生活する

2020年10月17日(土) - 2021年3月7日(日)

インフォメーション

期間:

2020年10月17日(土) - 2021年3月7日(日)
10:00〜18:00(金・土は20:00まで 1/2、3は17:00まで)

会場:

金沢21世紀美術館
展示室13、交流ゾーン、広場

休場日:

月曜日(ただし11月23日、1月11日は開場)、11月24日(火)、12月29日(火)〜1日(金) 、1月12日(火)

料金:

無料

お問い合わせ:

金沢21世紀美術館 TEL 076-220-2800

村上慧(1988- )は、東日本大震災のあった2011年3月に武蔵野美術大学造形学部建築学科を卒業しました。震災をきっかけに発泡スチロールを素材にした自作の家を担いで歩き、国内外で移住を繰り返すプロジェクト「移住を生活する」を開始しました。

本プロジェクトは、東日本大震災で多くの人々が家を失ったこと、震災後のコミュニティの衰退、そして震災の直前に友人たちと家を借りる契約をしたけれど、すぐには移動できなかったことへの疑問に始まりました。必要以上に物や金を蓄えるために生きる日常や、公私に空間を分化する社会的な条件や理由について探るこのプロジェクトは、個人の生活がどのように社会に影響を与えるのかを考察します。

本展は、2019年に当館のコレクションとなった作品《移住を生活する 2015.5-2018.9》に加え、村上がプロジェクトを開始した2014年4月5日から現在まで続く「移住を生活する」の全貌を展示する初めての機会となります。 村上が家を担いで移動した先で出会った人々、景色、出来事をつづった日記、ドローイング、写真、そして村上が歩いたルートをたどる地図によって構成される展示空間は、まるで村上とともに移住を生活し、村上が思考し葛藤したその只中にいるかのようでもあります。また、会期中「移住を生活する」を下敷きに始まった「広告看板の家」プロジェクトの最新作も美術館の庭に設置されます。

社会の中で感じ取った違和感や疑問をユニークな方法で私たちに提示し議論の場を作る村上の作品を通して、震災以後の日本の社会で生きることについて向き合い、改めて自分自身の力で考える機会となることを期待しています。

関連プログラム

テーブルトーク

私たちの生活に欠かすことのできない要素、例えば「衣食住」「コミュニティ」「労働」といったテーマと向き合ってきた村上は、日々生活するなかで当然のように受け入れてきたこれらの要素に疑問を抱き、考察してきたことを会場内で来場者と議論する場を設けます。
日程:2020年11月3日(火・祝)、11月7日(土)、12月19日(土)、2021年1月16日(土)、3月6日(土)、3月7日(日)
時間:14:00〜15:30
会場:展示室13
定員:各回5名(先着順)
参加方法:参加希望者は「村上慧 移住を生活する」会場(展示室13)へ直接お越しください。各回開始15分前から受付開始。

テーブルトーク スペシャル

日程:2021年1月30日(土) ゲスト:川瀬慈さん(映像人類学者)
   2021年2月13日(土) ゲスト:辻琢磨さん(建築家)
時間:14:00〜15:30
会場:展示室13
参加方法:参加希望者は「村上慧 移住を生活する」会場(展示室13)へ直接お越しください。

作家プロフィール

  • Photo by Ryo Uchida

    村上慧(MURAKAMI Satoshi)

    1988年東京都生まれ、同地在住。2011年武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。私(わたくし)と公(おおやけ)の関係に着目し、個人の生活がどのように社会に影響を与えるかを考察している。東アジア文化都市金沢2018「変容する家」(石川)、「高松コンテポラリーアート・アニュアルvol.08-社会を解剖する」(高松市美術館、香川)をはじめ近年は国内外の美術館や芸術祭への出品多数。

作家ステイトメント

  • 大学を卒業する年の3月というタイミングで東日本大地震が起こったとき、僕は東京都台東区橋場で友人たちと作品制作のスタジオとして借りたビルの鍵の交換に立ち会っていた。震度5強の揺れは向かいの建物をこんにゃくみたいに揺らし、遠くに見える工事中の東京スカイツリーではクレーンの先から下がった巨大なフックを空中でブランブランさせていた。それがツリー本体にぶつかりそうで危ないなと感じたのを覚えている。その日の夜は隅田川の逆流と移民集団のキャラバンのような歩行者の群れが橋を渡っているのに驚かされながら、葛飾区にある実家へ自転車で避難した。実家の綺麗なフローリングが敷かれた居間には原発事故と津波のニュース映像を見る父親がいた。それからの2年間、僕は橋場のスタジオで作品を作ったり仲間と小さな芸術祭を企画しながら生活していた。バイトもして、制作をして、家賃を払って住んでいた。毎日の生活のために毎日の生活をしていた。当たり前のことだ。でもあの津波と原発事故から、自分が立っているこの社会の地盤が思っている以上に脆いものであるという事実についても考えなくてはいけないと感じていた。そして、このまま普通に家賃を払って住んでいるだけでは「生き残れないかもしれない」と思うようになった。電気と水道とガスが通った家で普通に暮らしながら作品をつくること自体に嘘があるような気がした。そこでひとつ新しい試みとして、自分の「住み方」を作るところから始めてみようと思った。僕は近所の家のドローイングを描くところからはじめた。バイトや生活の合間に時間をとって近所を歩き、目に入った一軒家やアパートやマンションをひたすら描いてまわる。白い紙に黒いペンで。数十枚描いた後、今度は自分が住むための小さな家のドローイングを描いた。それからホームセンターに行き発泡スチロールの板を買ってきて、そのドローイングの通りに自分が眠れる最小限の家を作った。木材と発泡スチロールで壁と屋根を作り、強度を増すために上から白いガムテープを貼り、さらにガムテープの質感を消すために白いペンキを塗る。最後に、ずっと描いていた家のドローイングのような輪郭線の黒いラインをその家にも描いた。2014年4月から自分の生活に「移住を生活する」というタイトルをつけ、引っ越してから半年も経っていなかった高松の賃貸物件を出て発泡スチロールの家に住み始めた。その家を肩に背負って運びながら移住生活をしている。

    村上 慧

展示作品 展示室13

  • 2017年9月21日熊本県阿蘇郡阿蘇村の農家の駐車場 
    photo : MURAKAMI Satoshi

    村上が「移住を生活する」を始めてからすでに3軒の家を制作している。初代の家は2014年4月から約1年間、日本中を移動して役目を終えた。2代目の家は2015年5月から2018年9月まで、国内だけでなく海を渡って韓国まで行き、そして金沢までやってきた。その後、当館のコレクションとして収蔵された。家を失った村上は3代目の家を制作し、現在はこの家を担いで移住を生活している。本展では歴代全ての家が集結する。

  • 2016年5月23日岡山県倉敷市 
    photo : MURAKAMI Satoshi

    ドローイング

    村上が移住生活をしている間に描いた各地の家や建物のドローイングである。村上は、一般的ないわゆる定住生活それ自体を自分の移住生活によって客観するために、各地で人々が暮らす「住所を持った家」の絵を描いている。

  • 日記

    ドローイングとともに、移住生活の中で書き溜めた日記である。発泡スチロール製の家を担いで歩き、各地で人々に出会い、物事を考え続けた数年間分の記録を同日に描いたドローイングと合わせて展示する。

  • 2015年6月24日福島県いわき市勿来町の民宿「山名」の軒下
    photo : MURAKAMI Satoshi

    敷地写真

    地面の上に眠るためには敷地が必要となる。それがなければ「土地の所有者」から不法占拠と言われ罪になるため、敷地を借りる必要がある。寺院や神社の境内、個人宅の庭、ショッピングセンターの駐車場、美術館や店舗の軒下などの敷地を交渉によって借り、そこに眠ることで発泡スチロールの家に住むことができる。ここで展示される敷地写真とは、そのようにして借りた土地に作家の家を置いた様子を撮影したものである。

  • 「村上慧 移住を生活する」展(金沢21世紀美術館、石川、2020)展示風景
    photo : KIOKU Keizo

    歩行ルートを示した地図

    村上が歩いた道のりをGoogle Earthでたどり、印刷したものをつなげている。Google Earthが映し出す景色や季節の移り変わりは、実際に村上が歩いて体感したものに近い。鑑賞者はこの歩行ルートを示した地図をたどることで、村上の移住生活の一端をかいま見ることになる。

展示作品 広場(屋外)

  • 《広告看板の部屋》2020
    photo : KIOKU Keizo

    広告看板の部屋

    本作品は、移住生活をするなかで周囲からは生活費をどのように賄っているのか質問されたり、日常の中で広告収入というお金の動きがあることに違和感を感じたことなどに端を発している。
    外側では展覧会の広告としての看板、内側では村上が読書や執筆、休息などに時間を費やすプライベートな空間を作り、収入と消費の構造をひとつの作品のなかで成立させている。
    また、この看板は会期中金沢市内の店舗の看板に変わっていく。村上が金沢滞在中にお世話になった店舗の看板を出すことで、各店舗から村上が代償をもらうという仕組みだ。例えば美容室では髪を切ってもらったり、髪のケアをしてもらうなど「広告収入」を別のかたちに変える試みであり、収入がダイレクトに作家の身の回りの出来事に代わる様子が、店舗を物語る品々とともに看板の内側に陳列される。

滞在スケジュール

  • 10月〜11月上旬
    金沢市内に滞在しながら、ワークショップやトークイベントを開催
    11月中旬〜12月中旬
    金沢から珠洲へ「移住を生活する」実施
    12月中旬〜3月
    金石レジデンスに滞在しながらワークショップやトークイベントを開催

Images

クレジット

主催:

金沢21世紀美術館[公益財団法人金沢芸術創造財団]